不動産取引を始める前に
不動産業界で働き始めるまでは、不動産取引における各エージェントの役割について深く考えたことはありませんでした。
随分前の話ですが、土地勘がほとんどない状態で物件を探すため、現地日系不動産会社にコンタクトすると、早速いくつか物件を紹介してくれました。内見のために現地で待ち合わせた際にも、仲介の仕組みや料金の具体的な説明はなく「日本人のお客様とは信頼関係でビジネスしてますから、契約書とかサインとか不要です。」とのこと。予算以外に私の希望を尋ねることもなく、趣味に合わない物件に案内してくれました。
各エージェントが顧客一人ひとりの条件・希望を満たす物件を探すよりも、所属不動産会社がリスティングしている物件(囲い込み)や日本人が好みそうな適当な物件を紹介する方が簡単です。不動産取引終了後に「結構な金額の初期費用だったが、こんなものなのか」と終わってしまうことが大半でしょう。特に、雇用主が住居費用を支払う駐在員の場合、請求書の詳細を確認することもなく、家賃補助ギリギリの高額の賃貸物件を選んでしまいがちです。同時に仲介手数料も最大となります。
契約社会のアメリカで不動産を買ったり、借りたりする前に、理解しておくべき点がいくつかあります。
不動産エージェントは各取引において、自分の役割を明確にする義務があります。家主・売主のエージェントとは知らずに広告から直接問い合わせて話した内容が、家主・売主にすべて伝えられ、交渉材料にされてしまうリスクがあります。また、お客様が「クライアント」なのか「カスタマー」なのかによって、エージェントの業務の範囲が異なります。
借主の代わりに家主が仲介料を支払う場合には、不動産仲介会社・エージェントはお客様にその事実を伝える義務があります。家主が仲介料を負担するため、借主の仲介料負担なしとなるべき物件を借りても、仲介手数料を請求される(つまり、家主と借主の両方から仲介料を受領する)ケースもあるようです。
顧客囲い込みの一環として、初期費用を立て替えたり、住宅ローンを貸し出したりと、金融業を行っている不動産会社もあります。ワンストップサービスは、顧客にとって便利な一方で、後々トラブルになりかねません。「セキュリティデポジットを返さないので、取引を中止した。」という話を伺うこともあります。
【2025年3月10日更新】